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第一章 伊那谷というポテンシャル

「川下り米」と呼ばれ日本有数のコシヒカリの生産地でもある伊那谷では古くからりんご栽培も盛んでした。全国有数の厳しい冬の寒さと夏の爽快な谷風、澄み渡る空気がもたらす濃い陽ざし、三峰川水系から豊かに流れ下るミネラル分の多い美しい水、その中ではぐくまれる野菜、米、果樹すべてが良質でないわけがありません。
なにしろ伊那谷にはそのすべての貴重な条件が複合的にそろっているのですから!

実は、フランスでもブルターニュ、ノルマンディー地方を代表にそばとリンゴは同じ地区で栽培されています。もっと利益性の高い作物は残念ながら定着しなかった条件があったのでしょう。我々の暮らす伊那谷も昔から、そばとリンゴは栽培されてきました。
両者は切っても切れない間柄にあるのです。
それは、耕作地が同条件ばかりではありません。その栄養的側面からも実証されているのです。
フランスでは伝統的に、ガレットを食べながらシードルを飲む。そこには隠された優れた食べ合わせの秘密もあるのです。

第二章 食べ合わせの秘密

そばに含まれるルチンというポリフェノール、これはビタミンCと共に食べ合わせると消化吸収が高まることが分かっています。はたしてシードルにはこのビタミンCが豊富に含まれています。肌のくすみや美容に効果が高いとされています。

しかも、ポリフェノールもビタミンも水溶性の栄養素、ゆでる調理では大部分がゆで汁に流れ出てしまいます。その効果を最も吸収できる食べ方こそ、生地をすべて焼いて閉じ込めることができる「ガレット」なのです。

信州のりんごは品質が最高です

私たちの暮らす信州では「信州といえばりんご、りんごといえば信州」と言われるほどりんご栽培は歴史も深く、品質も高いことでよく知られています。標高が高いという伊那谷の地の利はりんご栽培の好条件である日夜の気温差、日照時間、水はけなどをもたらしました。温暖化が進む今、そのポテンシャルはますます高まっていると言えるでしょう。
「ふじ」をはじめ近年では「シナノレッド」「シナノスウィート」「シナノゴールド」など県内固有種の作付も盛んです。
生食用としては世界有数の高品質なリンゴを生産していると言っても過言ではありません

日本と「そば」の歴史

「そば」というと日本独特の作物、というイメージがありますが、中国雲南地方原産でアジアをはじめヨーロッパやアメリカ大陸でも栽培されているグローバルな作物です。中世十字軍によってフランスに運ばれ、ブルターニュのアンヌ女公がそば栽培を無税として奨励したため、この地方で盛んに作付されるようになりました。成長の速い植物で3か月ほどで収穫できるため、飢饉の度に救荒作物としてブルトンを救ったそうです。
ある時焼石の上に落ちた生地が薄く焼けていて、とても香ばしく美味しい食べ物であることが発見されます。

そばはタンパク質が10%近く含まれ、必須アミノ酸リジンを最も多く含む穀物で、栄養価の高い食物です。成分には以下のような特長があり、日本でも何世紀もの間「そばは妙薬」であると言われ続けてきました。

第三章 そばの栄養素のお話

ルチンをはじめとするポリフェノール類

そばの成分である「ルチン」は、ポリフェノールの一種で、毛細血管の膜に弾力性と厚みを持たせる働きがあります。欧米では血管強化剤として認可されているほどで、穀物の中では唯一そばにしか含まれない栄養素です。抗酸化作用、また血圧降下作用も認められています。
このルチンはビタミンCと一緒に摂取すると、吸収が促進されます。またルチン、ビタミンB1・B2など水溶性の栄養素は、調理法によっては失われてしまいますが、ガレットはそばの全成分が余すことなく食べられる、理想的な食べ方です。

ビタミンB1、B2

疲労回復ビタミンであるビタミンB1、また皮膚や粘膜を保護し、肌・爪・髪の発育や体全体の抵抗力を強め、成長を助けるビタミンB2。そばにはこれらのビタミンが、小麦粉の2倍、白米の5倍も含まれています。

食物繊維

食物繊維が5%も含まれるそばには、便秘や毒性抑制、体内コレステロール量の増加抑制の効果があるとされています。

ミネラル類

大豆の2倍もの鉄分をはじめ、カリウム、マグネシウムは小麦、米の3倍以上含まれ、身体の調子を整えます。

上記にもあるように血管強化剤でもあるそばはヨーロッパの山小屋には欠かせない食材の一つで高山病予防に重宝されているらしいのです。やはり、高地で育つそばには高地に順応するための栄養価が備わっているのも頷けます。また、低GI食品と言われ、そばは「グリセミック・インデックス」値が低い食品とされています。これは血糖値の急激な上昇を抑え緩やかにすることからアンチ・エイジング、ダイエットの世界ではガレットが見直されています。

救済作物といわれるそば

何より、栄養価に優れ、早ければ3か月という短期間で収穫に至るそばは、その昔、幾度となくブルトンの危機を救ったように、伊那谷の農業と食文化に光を当てる可能性を備えているのではないでしょうか?

そして、伊那谷のそば粉で作ったガレットは信州を、伊那谷をもっと豊かに楽しくするはずです!